ブルネロ・クチネリ 1953年、イタリア・ウンブリア州の農家に生まれる。1978年に「ブルネロ クチネリ」創業。85年にソロメオ村に本社を移転。地域の人々を雇用し、村の復興に貢献。著書に『人間主義的経営』(クロスメディア・パブリッシング) Photo: Stefania D'Alessandro / WireImage / Getty Images

ブルネロ・クチネリ 1953年、イタリア・ウンブリア州の農家に生まれる。1978年に「ブルネロ クチネリ」創業。85年にソロメオ村に本社を移転。地域の人々を雇用し、村の復興に貢献。著書に『人間主義的経営』(クロスメディア・パブリッシング) Photo: Stefania D'Alessandro / WireImage / Getty Images

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ラ・レプッブリカ(イタリア)

ラ・レプッブリカ(イタリア)

Text by Raffaella De Santis

「人間主義的資本主義」と「人間らしいサステナビリティ」を追い求め、「世界で一番美しい会社」とも称されるアパレルブランド「ブルネロ クチネリ」。上質なカシミア製品で知られる同ブランドの愛用者は、故スティーブ・ジョブズやマーク・ザッカーバーグなどテック界の大物から、ウィリアム英王子まで幅広い。

2025年4月、建築学の名誉博士号を授与された創業者のブルネロ・クチネリが、イタリア紙「ラ・レプッブリカ」のインタビューに応じた。彼は、自らの仕事を「建築家」になぞらえて語る。

ブルネロ・クチネリは、ものづくりの哲学の中心に「文化」を据えてきた。

その彼が、これまで名誉上の称号をいくつも授与されてきたのは驚くべきことではない。クチネリが受け取った称号のなかには、イタリア南部、カンパニア大学ルイージ・ヴァンヴィテッリが2025年4月3日に授与した建築学の博士号もある。

この博士号の題目は「メイド・イン・イタリーのためのデザイン──アイデンティティー、イノベーション、サステイナビリティー」で、ウンブリア州ソロメオ村にある、自身の名を冠したカシミアニットブランドの本社から、クチネリが発信してきた人間的な資本主義の理念を反映したものである。

その理念は、彼が村に設けた工場、劇場、図書館といったインフラに現れており、同時に人間の尊厳を尊重する労働哲学を提唱している。

単なる利益の追求を超える、「魂の構築」。大学教授や学生たちを前に、カシミア王クチネリはこう述べた。「真面目に勉強しなさい。そして何よりも、ただひたすら愛しなさい」

建築も企業も「堅固」で「有用」で「優美」であるべき


──建築とあなたの企業理念との間には、どのような関係があるのでしょうか。

「建築物はまず堅固であり、次に有用であり、最後に美しくあらなければならない」と古代ローマの建築家ウィトルウィウスは言っています。

この名誉博士号のお話をいただいたとき、感激しました。なぜなら、私は自分のことを自分の会社の建築家のようなものだと考えているからです。

私はずっと、この3つの言葉に導かれてきました。つまり企業が「堅固」で、「有用」で、「優美」であってほしかったのです。ハドリアヌス帝は「ローマが滅びるのは地上の最後の人間が滅びるときだろう」と言ったとされています。私たちにヒントを与えるのは、このような永遠の概念であるべきでしょう。


──この「ターボ資本主義」の時代において、それは野心的なチャレンジですね。

建設とは、長期的な視点でものを考えることです。アテネのパルテノン神殿の構想を立てたときのペリクレスも同じ精神に駆り立てられていました。それから数世紀後、ジョン・ラスキンのような英国の思想家もこの考え方が気に入っていました。

建築家はさまざまな側面を考慮に入れる必要がありますが、一番に、場所との親密性というものを考慮する必要があります。これは16世紀イタリアの建築家、パラディオが語っていたもので、言い換えると「ゲニウス・ロキ」(註:ラテン語で「地霊」を意味する)に対する敬意です。

──使い捨てに慣れてしまった、消費者としての私たちには、あなたの言う長期性は時代錯誤にも聞こえます。

あらゆる企業家は自分自身のことよりも、子孫に残す遺産のことを考えるものです。私は農村文化、つまり、何も捨てない文化のなかで生まれ育ちました。だからこそ私はメイド・イン・イタリーの製品を作ることにしました。職人が作る、高品質な製品です。

正直に言うと、私は「消費者」という言葉が嫌いです。たとえタイヤの話をするにしても、醜い言葉に思えてしまいます。「使用者」という言葉のほうが好みです。

イタリアは品質の高い手工業品を生産しており、この産業では世界第7位です。ヨーロッパについて言えば、素晴らしい「暮らしの美学」が息づいています。私には、ヨーロッパに新しい黄金時代が訪れるのが見えています。

「私の人生は、『創造』との絶え間ない対話だった」


──あなたは斜陽の物語に与しないようですね。ドナルド・トランプ米大統領の存在にも物怖じしないのですか?
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Translation by Hisashi Fukui

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